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読書感想

喧嘩師の生き様。『燃えよ剣』司馬遼太郎

時代小説はあまり読んだことがない。

暗記が苦手で学校の授業でも歴史が得意でなかったこともあり、古い時代の物語には惹かれてきませんでした。ただ先日知り合いから新選組の魅力について語られ、その際にお薦めとして紹介されたのが、本書『燃えよ剣』でした。司馬遼太郎の名は知っていましたが、前述したように時代小説をほとんど読んでこなかったので、今作が初めて読む著者の作品でした。

歴史が苦手とはいえ新選組の存在はもちろん知っており、漫画やドラマなどでも取り上げられる題材ですから世間一般の人並みの知識は持っていました。近藤勇、土方歳三、沖田総司。あと漫画『るろうに剣心』から斎藤一、『ゴールデンカムイ』から永倉新八。ここらへんまでが僕の新選組の知識でした。

実家に手塚治虫の『新選組』の漫画本があったので、どんな存在の集団かは子供ながら知っていたつもりです。「人斬り集団」、「京都の治安維持隊」という印象でした。そのほか、これまた漫画ですが『修羅の刻』で沖田総司や土方歳三ののカッコよさに惹かれました。僕にとって新選組の魅力というのは、史実に基づく事実ではなく、フィクションの中での彼らの勇姿に他なりません。

『燃えよ剣』も小説ですからフィクションです。当然、いろいろな文献や資料を参考にした上でしょうから、まるっきりでたらめではないにせよ作り物であることは間違いないと思います。でもそれでいいんです。小説はフィクションを楽しむものなんですから。事実だけを知りたいなら、歴史家かジャーナリストにでもなればいいんです。

新選組副長だけではない

土方歳三を主役に据えた本作では、土方以外の新選組隊士はかなり影を潜めています。近藤勇と沖田総司はまだ出番がある方ですが、斎藤一も永倉新八も、まあほとんど出番がありません。それこそ斎藤一なんかは『るろうに剣心』での活躍が嘘みたいに出番が少ないです。

その代わり、歳三は主役でもありますからこの小説では彼の男らしさがふんだんに描かれています。剣士としての強さもさることながら、後半では兵隊を率いる戦略家としての才能も描かれています。史実での彼の評価を知りませんが、作中の彼の言動や思想に触れると、まさに男が憧れる男といった人物です。

『燃えよ剣』というタイトルではありますが、”剣に生きた”というよりも戦いそのものに明け暮れた生涯ですね。世の中の近代化が進み、刀や槍による近接戦闘よりも銃や大砲を使った戦術に重きが置かれていくのですが、彼は新しい知識を貪欲に取り入れます。なんとなく幕末の侍というものは、西洋化に最後まで抵抗したのかなとも思っていましたが、時代が変われば人も変わらざるを得ないということですね。変わらなければ淘汰されるだけでしょうし。彼が代に生きていたとしても、こういう人が名を残すのでしょう。

物語が進むにつれて、新選組は解散し近藤勇や沖田総司といった仲間もいなくなっていきます。歳三が戦死することは分かっていますから、終盤は物語の展開よりも、彼がどういった最後を迎えるのかということの方を気にしながら読み進めました。彼自身も、最後は死を覚悟しながら戦いを続けます。敗北を悟りながら戦う気持ち。現代だとスポーツなんかでそういった状況に直面することはあるでしょう。その中で最後までベストを尽くす人、諦めムードでとりあえず競技終了までプレーする人。いろいろな人がいます。ただ戦争の敗北ーすなわち死が訪れることを知りながら最後まで戦う。僕なんぞでは計り知れない胸中ですね。

お雪という女性との情事もあります。殺伐とした展開が続く物語の中で、歳三という人間の違う一面を垣間見れることができて、読者としても少しの間だけは心が安らぎますね。

今年の5月に映画化するということで、書店でも平積みしてありました。時代小説が好きな方からすると「今更」な本でしょうが、僕のように時代小説に慣れていない方でも読みやすいです。これを機会に他の新選組の本を読んでみようと思います。いろいろな小説や書籍も出ているようですから。


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