海外作家の小説を手に取る機会は完全に運任せだ。日本人の作家ほど知った名前がないから、本屋でパッと目についた本のあらすじを読んで購入する。日本人の作家については読んだこのがない作家でも、ある程度はその人の知識を持っていることが多い。だから偏見や読まず嫌いのせいで、ちょっと気になったくらいではなかなか購入に至らない。でも海外作家の小説だと、今度いつこの本に出会えるかわからないので、とりあえず買ってみることが多々ある。なんせ、海外の作者名もタイトルも覚えるのが苦手なので。
ネヴィル・シュート著『パイド・パイパー』もそんな流れで購入しました。何かが決め手になって買う気になったわけではないですが、普段読まなさそうなタイプの本でも読んでみるかと思っただけです。
舞台は第2次世界大戦のフランス。旅行でシドートンという田舎に滞在中のイギリスの老紳士ハワードは、戦況の悪化に伴い帰国することに決めます。英国民として母国のために何かの役に立たねばと思ったからです。その際、ホテルで知り合ったキャヴァナー夫妻から、彼らの子供ふたりを一緒にイギリスまで連れて行ってほしいと頼まれます。ドイツの侵略を受けつつあるフランスから子供たちを遠ざけるためです。最初は自らの高齢を理由に夫妻の頼みを断ろうとするハワードでしたが、結局、子供たちを預かることとなります。
フランスに来た時と同様に、鉄道やバスを乗り継いでの旅程を考えていたハワードですが、ドイツ軍の侵攻が進んだせいで交通機関が平時のように順調に機能しません。せっかく乗り込んだバスもドイツ軍の戦闘機の攻撃で動かなくなってしまいます。また旅の同行者が小さな子供なので、なかなか言ううことを聞いてくれなかったり、体調を崩したりで思うように先へ進めません。はたしてハワードたちは無事にイギリスに辿り着くのか…。
といった内容です。戦争を題材にしていますが、軍人や戦場での話ではなく、民間人であるハワード主体の物語ですので、派手なドンパチがそうあるわけではありません。ただただ長い道のりを旅する話です。それでも途中に様々な困難が待ち受けているわけで、毎度毎度彼らがうまくトラブルを回避できるか心配しながら読みました。
最初は3人で始まった旅ですが、道中、同行者が増えていきます。やはり戦争のせいでフランスにとどまることができなくなった子供たちが何人か加わります。子供たちの世話をしながら帰国を目指すハワードの様子や、戦時下での困難も描かれていますが、子供たちの姿がこの物語の中では一種の清涼剤となっています。
子供たちは無邪気に戦車や戦闘機を見てはしゃいだり、おなかが空いてぐずったりします。農家の納屋で藁をかぶって寝ることも遠足みたいに楽しみます。これらの子供たちの描写のおかげで戦時中とはいえ、そんなに悲惨な内容の物語にはなっていません。冒険小説として楽しむことができます。
一生懸命赤の他人の子供たちの世話を焼くハワードの頑張りは、さすが英国紳士といった姿なのか、ただ単に年の功なのか。老体である彼一人が帰国するだけでも大変なのに、わがままを言う子供たちを決して見捨てず、子供たちをイギリスへ送り届けるという夫妻との約束を固く守ります。それどころか途中で一団に加わった他の子供たちも同じように世話をします。何人かは全く彼が保護する責任がない子供なのですが、ある意味、意地ともいえる彼の献身ぶりが素晴らしいです。
物語の途中である人物と出会ってから、帰国のために様々な手段を講じるようになります。変装したり第三者の協力を仰いだりと、より冒険小説らしくなり、中盤からラストまではハラハラしながら楽しめます。
読み終わってから知ったのですが、最初の刊行は1942年と、まさに第二次世界大戦真っ只中に発表された小説です。これだけ古いと読んだ方も多いかもしれませんが、戦争云々は関係なく、単純に面白い小説です。ぜひ読んでみてください。