調査隊によって月面で発見された宇宙服をまとった死体。どこの月面基地の所属の隊員でもない彼はチャーリーと名付けられる。死体を調べるうちに判明した事実は、チャーリーが死んでから5万年以上も経過しているということだった。なぜ5万年以上も前に、月面で死んでいるのか。人類を巻き込んだ史上空前の謎。
宇宙を題材としたSF小説ですが、『星を継ぐもの』は宇宙戦争や科学兵器が主体となる話ではなく、チャーリーが何者なのかを探るミステリーと言えます。そもそも5万年前なんて、地球上では宇宙への進出どころか、現代文明も生まれていない原始時代です。そんな時代に月に人がいるってどういうこと?という感じなのですが、小説の中では多くの学者が科学的アプローチをもってその謎を解明する様子が描かれています。
物理学、生物学、言語学…。チャーリーの正体を調べる過程で様々な謎や矛盾が生まれるのですが、その過程の描写が非常に専門的で、作者のジェイムズ・P・ホーガンの博識ぶりに驚かされます。
イギリス人のヴィクター・ハントは原子物理学者で、トライマグニスコープという、物体の内部を透視できる機械の開発者です。国連宇宙軍(UNSA)がチャーリーの身体や所持品を調べるのにトライマグニスコープを必要とするため、ハントもチャーリーの調査に関わることになります。何しろ5万年以上も前の死体や所持品ですから、下手に手を触れたり解剖したりして、修復不可能な状態にするわけにもいきませんからね。
物語中にはハントや他の学者同士の会話も頻繁に現れますが、なかなか内容を理解するのは難しいのですが、科学の知識がなくても彼らのやり取りは読んでいて非常に面白いです。
科学的視点による結論が絶対という前提があるので、ある一つの事実が解明できても、別の矛盾が生まれてしまうという風に調査は難航します。それでも物語が進むにつれそれらの矛盾が解決されるさまは、推理小説を読み進めていくような快感をもたらします。
物語途中からいくつかの発見が見つかり、終盤に向かうにつれてかなり大規模なテーマが展開されますが、その圧倒的なスケールが本書の魅力でもあります。作者の発想力には全く持って驚かされます。
SFが苦手な方でも、壮大なスケールの科学ミステリーとして読んでもらえれば、きっと満足できるのではないでしょうか。