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読書感想

死よりもつらい孤独 早見和真『イノセント・デイズ』

大分前から気になっていた本でしたが、色々な評価を目にして自分の中で勝手にハードルを上げすぎたせいで、逆に読むのをためらっていました。期待しすぎた挙句、そこまでの満足感を得られなかったときの失望を味わいたくないがためでしょうか。重そうなテーマを扱っていそうだったので、読むのに体力が要りそうだなと思っていたのも原因の一つです。

ただ、一度読み始めたらほぼノンストップで読み終わりました。『イノセント・デイズ』早見和真著)は、久しぶりに時間を忘れさせてくれるほどの本でした。

元恋人の家に放火して、妻と双子の子供を殺した罪で死刑を宣告された田中幸乃。彼女の幼少期からの生い立ちと、事件についてが描かれていきます。

章ごとに彼女に関連する人物の視点で物語が進むのですが、その都度明らかになる真実を知るたびに、幸乃がなぜ死刑囚になってしまったかを知るべく読み進めてしまいました。物語の進め方から、横山秀夫の『半落ち』や東野圭吾の『白夜行』を思い出しました。

彼女に関わった人たちの多くは、彼女の現状に対してそれぞれ後悔の念に駆られます。あの時ああしていれば、幸乃は死刑囚になんてならなかったのでは、と。

読み進むにつれ、幸乃が死刑判決を受ける過程が明らかになっていきます。読む側からすると、彼女に同情せざるを得ない事実が次々と現れます。特に彼女が絶望的なまでの孤独を感じる様は、読んでいて痛々しいものがあります。

その孤独が故の幸乃の今を知った知人たちの中には、彼女を救うために行動を起こす人もいます。自分のために動いている人たちの存在を幸乃も知るのですが、なかなか彼女の孤独を打ち消すことができません。彼女の抱えたトラウマはそれほど大きなものでした。

そういった人物たちの行動は、贖罪なのかもしれません。

ただそれは自分たちの都合による贖いでしかありません。

裁判により、彼女の “死” が確定して初めて行動を起こす。それはただ単に、寝覚めが悪いだけではないでしょうか。自分の過去の行動せいで、ひとりの人間がこの世から去る。大袈裟に言えば、自分が人を殺すようなものでしょう。

自分で自分を許すための贖罪。それはただの自己満足。

ただ悲しむだけの人でもそうです。「自分は彼女の死に対して心を痛めている」という気持ちを持つことで、彼女を憐れむことで、許されたい。

彼彼女たちは卑怯者です。でもそれが人間らしさなんです。無償の愛というものが難しいのもそういったことからでしょう。結局、人は自分のためにしか行動できないのですから。

物語の終盤で、幸乃が刑務官に対して放った台詞が彼女の孤独を表しています。

これほどまでに彼女は絶望していたのか。それを言われたらもう何も声をかけられない。

大勢の人が死ぬことはこわいでしょう。もちろん僕だってそうです。

でも人間が死ぬのを恐れなくなったら。

それはとても幸せなことか、もしくは救いようがないほど不幸なことなんだと思います。

読了後に表紙の絵を見返すと、これもまた彼女の孤独を表現したものです。この意味を知るためにも、ぜひ一読することをオススメします。

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