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音楽紹介

重いメランコリー STARSAILOR『Love Is Here』

2000年代初頭のUKロックの主流といえば、やはり世界的にヒットを飛ばすコールドプレイに代表される “美メロ” バンドになるでしょうか。2000年にデビューした彼らの音楽はファルセットを多用したヴォーカルに、キーボードやストリングスを大々的に取り入れたサウンド。ヴォーカルに関してはレディオヘッドのトム・ヨークの影響がモロに現れていますが、レディオヘッド自体はそれほど美メロをウリにしたバンドではなかったので、この系統のバンドの代表格はコールドプレイと言えるでしょう。彼ら以外にも、キーン、トラヴィス、スノウ・パトロールなどのバンドが人気ですが、今回はSTARSAILOR(スターセイラー)のデビューアルバム『Love Is Here』をオススメします。

美しい旋律の中にある圧倒的な陰鬱

陰鬱なイントロで始まる1曲目の「Tie Up My Hands」は、曲が終わるまでその空気を変えることはなく、先に挙げたバンドたちの楽曲と比べるとかなりダークな雰囲気をまとっています。いきなり1曲目からこんなに暗い曲で始めなくても、という気がしないでもないのですが、そもそもほとんどの曲が明るさや希望と言ったものを微塵も感じさせないものなので、致し方ないといったところです。

フロントマンであるジェイムズ・ウォルシュ(Vo&Gt)の念仏にも似た歌い方が、さらにそういった印象を深めます。ジェフ・バックリィに影響を受けたということですが、なるほど確かに彼も派手で華やかな曲を歌うシンガーではなかったので、バンドの方向性に納得できる点です。

2曲目の「Poor Misguided Fool」はバックに流れるアコースティックギターの音色が印象的な曲。メロディアスなピアノや、当然ながらジェイムズのヴォーカルがあっての美メロソングなのですが、出だしからずうっと繰り返されるバッキングが耳について離れません。アコギもこのバンドの一風変わった特徴ですね。こうして聴くと、当時としてはかなりオリジナリティに溢れたバンドだったと思います。

続く「Alcoholic」も大好きな曲です。最初の1分間くらいはヴォーカルとピアノだけで始まり、その後ドラムとベースが合流するパートがぞくっとするカッコ良さです。またこの曲でバリー・ウェストヘッド(Key)が奏でるピアノが、まるで「もうひとつのヴォーカル」というくらいの情感たっぷりの表現力に満ち溢れてる。大体どの曲もギターパートがアコースティックメインなので、ピアノの魅力が非常に伝わりやすくなっています。

激情型メランコリックとでも呼べそうな「Talk Her Down」は彼らの真骨頂というべき曲。哀愁を帯びたメロディですが、演奏自体はかなりダイナミック。陰鬱ながらもただ物悲しいだけのバラードではなく、あくまでロックナンバーとして作られた楽曲は、彼らのアイデンティティそのものと言ってしまっても差し支えないのでは。

また「Way To Fall」は憂鬱な気分に落とされそうな物悲しいメロディですが、間奏でグッと盛り上がる構成です。それでも曲全体に広がる沈痛さは薄まることなく、どうしてここまで陰鬱なメロディを思いつくことができるのか、ある意味感心してしまうセンスです。

タイトルトラックの「Love is Here」も、感情を深く沈みこんでしまいそうな哀愁漂う曲です。タイトルの意味はすごくポジティブに感じるのですが、明るさの欠片もない、むしろ強い絶望感を味わうほどの雰囲気しかないです。この曲はピアノはあまり目立たず、おとなしめのキーボードの伴奏が憂いを含んだヴォーカルを際立たせています。個人的には、途中のギターソロがU2のエッジがプレイするようなフレーズで好きな曲です。

「Lullaby」と「Good Souls」は数少ないポジティブな意思を感じる曲。声は当然同じなのですが、ここまで陰と陽の違いがはっきりしていると、同じバンドの曲同士という事実に違和感を感じます。

ここまで暗い曲が並ぶデビューアルバムにも関わらず 、全英チャートで2位になったということなので、英国人は暗い曲がそんなに好きなのか?とも思ってしまいます。でも根底にあるのはやはり美しいメロディ。それこそ世界的大ヒットになった、コールドプレイに匹敵するほどのセンスだと思います。ただ今作以降のアルバムはここまで重苦しい雰囲気がなくなったので、それはそれで残念な気もします。この路線を突き詰めていっても面白かったとは思うんですけどね。

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