おんどくライフ
音楽、読書、日常いろいろ
読書感想

美味しい小説 『タルト・タタンの夢』近藤史恵

あまり料理を主題にした小説を読むことはなかったのですが、ページ数が少なくてすぐ読めそうだったのと、表紙のイラストに何となく惹かれて購入。『タルト・タタンの夢』は料理を非常に美味しそうに描くだけでなく、ミステリーとしても面白く読めました。

フランスの家庭料理を提供する〈ビストロ・パ・マル〉。シェフの三船が作る料理は気取った高級料理ではなく、素朴な家庭料理がメインの店です。もう一人の料理人の志村。紅一点、ソムリエの金子。そして物語の語り手となるギャルソン高築の4人が働く、小さな店で起きる小さな事件を描いた短編集です。

ミステリーといっても殺人事件が起きたりするわけでなく、主にパ・マルに訪れる客が抱える秘密や謎を解き明かす、いわゆる日常ミステリーです。1話ごとにあるフランス料理が関わるのですが、料理と謎解きが関わっている点がミステリーとしてよくできています。

そもそも表題の “タルト・タタン” なるものが料理の名前ということを知らない僕ですから、フランス料理については全くの無知です。小説の中ではそんな僕のような読者にはありがたく、料理についての説明が書いてあります。材料や作り方が書かれているのですが、それを読んでいるだけで美味しさが伝わってきます。

タルト・タタン、ロニョン・ド・ヴォー、ガレット・デ・ロワなどなど。見たことも聞いたこともなかった料理ばかりでしたが、小説の中で描かれるそれらの料理は僕の脳内で見事に映像化され、もう謎解きとかよりも料理の描写の方が読んでいて楽しい本です。

もちろん謎解き自体もしっかりと練られたものばかりです。体調を崩した常連客、極端な偏食家、元高校球児の甘味屋の主人らが抱える問題を三船の推理力で解決するのですが、フランス料理に精通している彼だからこその発想力で、謎を解き明かしていくさまが実に爽快です。

続刊の『ヴァン・ショーをあなたに』も読みましたが、安定の面白さでした。作者の近藤史恵氏は自転車ロードレースを題材にした『サクリファイス』を書いた人なんですね。以前知人が面白いと言ってた本なので、ぜひそちらも読んでみたいです。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)