U2は1980年にアルバム『Boy』でデビューしてから2017年の『Songs Of Experience』まで、通算14枚のアルバムを発表しています。次作のアルバム発売までに4~5年かかるケースもありますが、大御所にしてはコンスタントに作品を発表しているバンドです。特筆すべきはメンバーの脱退がなく、デビュー以来のメンバー構成で活動しているという点ですね。
これだけのキャリアですから、リアルタイムで夢中になったアルバムはファンの年齢によって異なるでしょう。僕は90年代からU2を聴いてきたので、80年代最後の『The Joshua Tree』までのアルバムにはそこまで思い入れがない方です(それでも一応ほとんどのアルバムは所有していますし、好きな曲もたくさんありますよ)。
そこで今回、U2の90年代のおすすめアルバムとして紹介するのが通算9作目の『Pop』です。
U2は90年代に3枚のアルバムを出しています。91年『Achtung Baby』、93年『Zooropa』、そして97年に90年代最後のアルバムとなった『Pop』が発売されました。この3作ではそれまでの正統派ロックサウンドからガラッと変わり、打ち込みやシンセを多用するエレクトリックなロックとなりました。
特に『Achtung Baby』が発表されたときは、結構ファンの間でその変貌ぶりに驚きがあったみたいですね。僕はそれこそ『Achtung Baby』や『Zooropa』からU2を知ったので、逆に80年代のU2のアルバムを聴いてそのサウンドの違いに驚きましたけど。正直、「なんか地味だな」と。まあこの3作がそれ以前の作品と比べて、サウンド的に煌びやかではありますけどね。
そしてこの90年代3部作の中でイマイチ評価されていないのが『Pop』ではないでしょうか。特に熱心なU2のファンほど、あまりこのアルバムが好きと言う人は少ない気がします。確かに、音もアルバムタイトルも当時のツアーでのメンバーの服装も含めて、U2らしからぬ軟派で軽薄な雰囲気がありました。80年代の頃の硬派でストイックな彼らをあまり知らない僕でさえ、1stシングルの「Discothèque」のPVを観たときは唖然としましたね。なかなかふざけたPVですので一度は観てほしいです。
なので僕も最初はこのアルバムが好きにはなれませんでした。でも何回も聴いていくうちに今までのU2とは違った魅力を発見していきました。
U2史上最もギターを聴くべきアルバム
元々Gtのジ・エッジはエフェクターを多用していろいろなギターの音色を作り出すことに定評があるギタリストです。このアルバムのサウンドの変化にも当然彼の意思が大きく関わったのでしょう。このアルバムが語られるときって、大抵U2のダンス化だとかテクノ化だとかが批判的に言われるのですが、れっきとしたロック、それもギターロックアルバムだと思ってます。
全体的に打ち込みのドラムサウンドや加工されたギターやベースの音など、エレクトロニクスな仕上がりが目立つアルバムですが、エッジの弾くギターリフやフレーズが単純に格好いいものが多いです。
出だしの3曲、「Discothèque」、「Do You Feel Loved」、「Mofo」はこのアルバムの中でもテクノやダンス寄りだという風に書かれているのをよく見かけますし、たしかにそう思います。でも「Discothèque」なんかはメインとなる印象的なリフも、エレクトリカルな加工がなくても十分格好いいものですけどね。「Do You Feel Loved」のイントロのギターとベースなんてU2の歴代の曲の中でもかなりイかした絡みだと思います。サビの流れるようなギターも好きですね。
「If God Will Send His Angels」はまさにU2といった感じのバラードです。Voボノの歌声の向こうで鳴るエッジのギターのアルペジオが、音は硬質ながら温かみを与えてくれます。きっとアコースティックなセットで演奏しても変わらない良さがあると思います(当時は演ってたのかな?)。
「Staring At The Sun」はイントロのギターの入りがいいですね。サビではそのギターがボノのヴォーカル以上に”歌って”います。
サビでのヴォーカルの掛け合いが盛り上がる「Last Night On Earth」は、ギターよりもボノのエモーショナルな歌の方に耳が行きます。やっぱりどんなアレンジの曲でも彼が歌えばU2らしさが失われることはないですね。このアルバムが発売されてすぐはこの曲が一番のお気に入りでした。中二病なタイトルにも惹かれたのかもしれません。
イントロからエッジのギターが豪雨のように降り注ぐ「Gone」は、Baのアダム・クレイトンとDrのラリー・ミューレンJrのリズム隊による淡々とした演奏が何気に耳に残ります。特にこのアルバムのアダムのベースラインは、それ単独で聴いても絶対聴きごたえがあるものですね。
「Miami」はちょっと小休止的な曲です。最後にずっとマイアミって言ってるだけの曲です。グランジのような音のギターは時代かな。
U2の隠れた名曲「The Playboy Mansion」なんかは最近のライブでもやっても良さそうなくらい、このアルバムでは浮いています。全然テクノでもエレクトリカルでもないです。『Pop』の曲はそれ以降のツアーではあまり演奏されなかったみたいですね。ライブの動画をあまり見つけられませんでした。オーディエンスの受けが悪いのか、メンバーたちがあまり好んでいないのか。ボノはこのアルバムを作り直したいと言ってたみたいですね。好きなファンもいるのになあ。
「If You Wear The Velvet Dress」はボノのささやくようなヴォーカルで始まる地味な曲です。ただ、中盤の間奏パートで静かな盛り上がりを見せます。やはりエッジのギターがただの地味な捨て曲なんかにはしないです。ギターがおとなしい分、アダムのベースラインが目立ちます。
「Please」はですね、本当はぜひライブ版を観ていただきたい楽曲です。ギタリスト、ジ・エッジの凄みを見せつけられますねえ。
最終曲「Wake Up Dead Man」もテクノだダンスだは全く関係ない曲です。1曲目の「Discothèque」のことを考えると後半になって大分曲の感じも変わりましたね。そうしてみるともっとこのアルバムは評価されてもいいと思うんですけどねえ。やはり当時のインパクトがすごすぎたのか、拒否反応を示す人は多そうです。
おそらくアルバム人気投票をすると上位には入ることはないであろう『Pop』ですが、いちロックアルバムとして見れば、良い曲も多いですし、サウンド面でも尖っています。むしろU2ファンでない人が聴いたほうが高評価なのかもしれません。