何回か聴いたのちに、その音楽の良さに気づいてすっかりハマってしまうバンドもあれば、むしろ最初のうちはそんなに好きではなくて、しばらく放っておいて改めて聴いてから好きになったバンドもある。
例えばほとんどのスタジオアルバムを持っているU2やパール・ジャムにしても、最初から夢中になったわけではなかったです。何曲か気に入った曲をリピートして聴いていくうちに、バンド全体の評価が上がっていった感じで、今僕が好んで聴いているバンドやミュージシャンのほとんどがこのタイプに当てはまります。
反対に、最初に聴いた段階で気に入ってアルバムを買ったものの、そのうちあまり聴かなくなったアルバムもあります。初めのうちに聴きすぎてしまったせいで飽きがきたのもあるだろうし、良い曲とイマイチなもの(控えめな表現だ)の差が激しいというケースもありますね。
そんなわけで最初に聴いてからずっと好きで、何年経とうが、いつまでも定期的に聴いてしまうアルバム(バンド)というものはなかなか出会えないものですが、確かに存在します。
バンド名はAT THE DRIVE-IN(アット・ザ・ドライブ・イン。以下ATDI)。アルバムのタイトルは『Relationship Of Command』(2000年発表)。
このアルバムというか、バンドとの出会いはHMVの試聴コーナーでした。仕事を遅番で早く上がれた日には、たまに一駅先にあるHMVまで歩いて行ってよくCDを漁っていたものです。タワーレコードに行こうとすると、帰り道のルートから外れるので、CDを物色するのはもっぱらHMVでしたね。
その日もいつものように洋楽のロック&ポップのコーナーへ向かい、CDの棚を眺めつつ試聴コーナーの前まで行きました。記憶では一台当たり3枚のCDが入った試聴機が4~5台くらい並んでいました。
添えられていたPOPには、プロデューサーがロス・ロビンソンであることが書かれていました。ロス・ロビンソンといえば、コーンやリンプ・ビズキットのアルバムのプロデューサーだということは知っていました。
そしてミックスはアンディ・ウォレス。当然、僕の中ではニルヴァーナの『ネヴァーマインド』のミキサーという印象が一番。
(メジャー)デビューアルバムにしては豪華な布陣だな、期待の新人か?と思いつつ、いまどきのラウドロック系バンドかなと勝手な予測とともに試聴機の再生ボタンを押しました。
衝撃としか言いようがないサウンドとテンション
シャカシャカいう音(いま思えばマラカスなのだが)が鳴ったかと思ったら、うねるような低音グルーヴと、蛇のようにのたうち回るギター。
瞬間、空気が変わる。
掻き鳴らされる2本のギターと、躍動するベースとドラム。
「あ、これ当たりだ」
と思った瞬間に耳に飛び込んだのは圧倒的な熱量をはらむヴォーカル。
1曲目の「Arcarsenal」。バンドは圧倒的なテンションをまき散らしながら、フルスロットルで駆け抜ける。ロス・ロビンソンプロデュースということでメタル寄りのバンドを想像していたせいもあるが、今まで出会ったことのないロックに衝撃を受けた、というよりも面食らった。
1曲聴き終わる前に次曲の「Pattern Against User」を再生。すぐさま、決して1曲目だけに良曲を入れたアルバムではないと確信した僕は、早くひとりの空間でこのバンドを堪能したかったため、試聴を早々に切り上げてレジに向かいました。
音楽的にはいわゆるエモ、ポスト・ハードコアといった表現に近いですが、そういった枠に収まりきらないATDI独自のジャンルが形成されてます。ヴォーカルスタイルもラップに通じるものがあり、広義的にはミクスチャーとも言えますね。サウンド面では違いがあるものの、その背景にはレイジ・アゲインス・ザ・マシーンに近いものを感じます。
このアルバムのというか、彼らの代表作はやはり「One Armed Scissor」に他ならないでしょう。叙情的なアルペジオによって際立つ、掻き鳴らされるギターコードとセドリック・ビクスラー(Vo)の叫び。何かに抗って、声を上げるその様。正直、彼の書く歌詞は理解するのが難解だが、それでもその歌声は心に突き刺さる。中盤のセドリックとジム・ワード(Gt&Vo)がシャウトするところなんて身震いしてしまう。
メジャーデビューとなる今作を発表した翌年、いきなり彼らは無期限の活動休止に入ってしまう。なので、当時彼らのライブを観ることはできませんでした。ただそれから16年後の2017年の再結成ツアーで、彼らのライブを観ることができたのは幸運でした。あまり友好的でない彼らの解散を思うと、再結成なんて絶対にないと思っていたので。今まで観たライブの中でもトップクラスと言えるほどの最高のライブでした。そのときも「One Armed Scissor」が一番の盛り上がりを見せていたと思います。
イギー・ポップを迎え入れた「Rolodex Propaganda」の激しさの中にある浮遊感や、「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」の空耳でお馴染みの「Sleepwalk Capsules」の突進力は「One Armed Scissor」を凌ぐ勢い。アルバム終盤にも関わらず、熱狂から逃れさせてくれないほどのアツさを持った「Cosmonaut」。とにかくほとんどの曲がテンションMAXで聴かざるを得ないほどです。
活動休止後にセドリックと新バンド、マーズ・ヴォルタを結成するオマー・ロドリゲス(Gt)による変態的なギターも、このバンドの重要なサウンドの要。どちらかと言えば、かっちりした印象のジムのギターと比べて、まるで曲がりくねった川を流れるようなオマーのギターはこのバンドの独自性の象徴ともいえます。
ピアノの旋律が美しい「Invalid Litter Dept.」は彼らの曲の中ではもっと “エモっぽい” 。これまでに挙げた曲と比べると大人しく聴こえるが、サビの高揚感は「エモい」感情を揺り動かす。
初めて聴いてから20年の歳月が流れましたが、いまだにこのアルバムを聴くと体の奥が自然と熱くなります。昔のように熱狂とまではいかないが、若い時に出会えてよかったアルバムだと思います。