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色気のある歌声。STONE TEMPLE PILOTS『Tiny Music … Songs From The Vatican Gift Shop』

ストーン・テンプル・パイロッツ(以下ストテン)は、1992年にアルベム『Core』でデビューしたサンディエゴ出身のロックバンドです。700万枚売れた大ヒットアルバムですが、彼らより前にデビューしたサウンドガーデンやパール・ジャム、ニルヴァーナらグランジバンドの二番煎じだとかの批判も多く受けました。たしかに当時のスコット・ウェイランド(Vo)の低く太い歌声はパール・ジャムのエディ・ヴェダーのそれに近く、突っ込まれても止む無しといったところです。

2枚目の『Purple』ではアルバム全体的に前作よりもヘヴィーさが薄れて、キャッチーでポップなサウンドとメロディーが目立つようになりました。それでも低く太く歌うスコットのヴォーカルは前作と大きくは変わっていません(曲によってはそんなこともないのですが)。

当時は僕も彼らのことをいわゆるグランジバンドのひとつとして認識しており、そこまで注目するバンドではなかったですね。僕はグランジブームの始まった頃はまだ音楽に夢中になっておらず、1990年前後のバンドはほぼ同時期に知ったので、彼らのことを二番煎じとも見ていませんでしたが。

そこで96年にサードアルバム『Tiny Music … Songs From The Vatican Gift Shop』が発表されました。

CDを買った音楽仲間に「ストテンが変わったぞ!」と言われて聴いてみたのですが、なるほど確かに彼らは変わっていました。サウンド面ももちろん変化があったのですが、一番驚いたのはスコットのヴォーカルです。前作までの低くて太いマッチョな感じの歌い方ではなく、ややかすれ気味で高音の声はどこか男の色気を感じさせました。アルバム全体も、今までのようにヘヴィーなリフでゴリゴリ押すといった感じでなく、前作『Purple』で垣間見えていたキャッチーさ&ポップネスが前面に出ています。

インスト曲の「Press Play」から始まり、実質1曲目の「Pop’s Love Suicide」でいきなりそのポップさを体験します。タイトルにも”POP”と付いているわけですからその点は間違いないですよね。ノイジーながら、どこか今までの彼らからすると、軽い音のギターがもう「ストテンが変わった」ことの裏付けです。後に続くスコットの気だるげなヴォーカルは、キャッチーなメロディーながら退廃的な雰囲気を醸し出しています。

続く「Tumble In The Rough」、「Big Bang Baby」も曲の系統は似ています。それにしても彼らが作るギターリフはシンプルで口ずさみやすく、そして格好よくてノれるものが多いです。「Big Bang Baby」のPVでもそうですが、ディーン・ディレオ(Gt)が軽快にギターを弾く立ち振る舞いが好きなんですよねえ。典型的なロックギタリストといった感じで、まるでエアロスミスのジョー・ペリーみたいです。同時代のバンドの中では地味な印象のギタリストですが、ストテンの魅力は彼のギターによる点も多いと思います。

「Lady Picture Show」は彼らお得意のミドルテンポのバラード。ただ切ないだけでなく、派手さはないですがディーン・ディレオ(Gt)のギターソロが良いアクセントになっています。

甘酸っぱいメロディーの「And So I Know」は緩やかなテンポのバラードです。ストテンは大体どのアルバムにもこういった曲を入れますが、正直この手の曲はあまり僕の好みではないですね。

「Trippin’ On A Hole In A Paper Heart」と「Art School Girl」はタテノリ必至のロックナンバーです。「Trippin’ ~」はちょっとファンキーなノリのギターソロが好きですね。ややもすると一本調子になりがちなこの曲に、こんなソロを入れるの?という意外性が流石のセンスだと言えます。「Art School Girl」は最初は穏やかに始まるのですが、サビで急にノイジーになりその対比が面白い曲です。このアルバムの中で一番聴いている曲ですね。Aパートが静かでサビで盛り上がるという構成が大好きなんです。

完全なスローバラードの「Adhesive」ですが、前述した「And So I Know」のような甘ったるい感じの曲ではなく、サビの盛り上がり方が素敵なロックバラードです。後半の間奏部分のトランペットがまたいい味を出しています。

いかにもオルタナバンドといったギターリフで始まる「Ride The Cliche’」はゆったりとした、サイケデリックな雰囲気を感じさせるナンバー。ギターだけのインストゥルメンタルの小品である次曲の「Daisy」と併せて、そろそろ終わりが近づいている空気です。

最後の「Seven Caged Tigers」は男の哀愁が漂うミドルテンポのナンバーです。憂いを帯びたスコットのヴォーカルに、乾いた歪みのギターがよく合います。また、他の曲でもそうですが、ストテンのミドル~スローテンポの曲ではロバート・ディレオ(Ba)のベースの方がディーンのギターより演奏を引っ張ていますね。ちなみにこのふたりは兄弟です。

このアルバム、というよりストテンのほぼ全ての作品のプロデューサーであるブランダン・オブライエンもピアノなどでアルバムに参加しています。彼はパール・ジャムなどの90年代オルタナバンドのプロデュースやミキシングを数多く手がけている人で、ストテンの音楽制作に多大な貢献をしたことでしょう。彼らが初期の頃にグランジかぶれといった批判を浴びたのは、このブレンダンにも責任があるかもしれません。

スコットは2015年にドラッグとアルコールの過剰摂取が原因で亡くなっています。その後もヴォーカルを変えて活動を続けていますが、個人的にはもう聴くことはないかもしませんね。例えば、アリス・イン・チェインズのレイン・ステイリー(Vo)が亡くなった後もバンドは新メンバーで活動を続けていますが、やはり若いころに彼らの声でそれぞれのCDを聴き込んでいた分、新たなヴォーカリストを受け入れられないのはありますね。

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