独創的なビジュアルコンセプトで当時、ロックファンの度肝を抜いたMARILYN MANSON(マリリン・マンソン)。
正直、始めて彼らの存在を知ったときは色物バンドとして見てました。ただその前にもKISSのようなバンドもいましたし、日本にはヴィジュアル系というジャンルもありますから、そこまで特異なことではなかったかもしれません。その後もメンバー全員が覆面姿というスリップノットのようなバンドも出てきましたしね。
ただ、マリリン・マンソンは反キリスト教というコンセプトを打ち出しており、ビジュアルだけでなくバンド全体のイメージ戦略も徹底していました。スラッシュメタルバンドのスレイヤーのように悪魔崇拝などを歌詞に取り入れたバンドもありましたが、マリリン・マンソンほど音楽面とヴィジュアル面の両方で、バンドイメージを徹底的にプロデュースした例は珍しいものでした。
歌詞の内容はともかく、98年発表の『Mechanical Animals』はそういった反キリストといったイメージよりも、近未来のSF的な雰囲気が強いアルバムです。
シンセサイザーをふんだんに取り入れたサウンドは、90年代前半に猛威を振るったグランジ/オルタナバンドが持つガレージサウンドの逆を行くものでした。とは言え、同時期にはデジタル色が強いプロディジーやケミカル・ブラザーズの活躍もあったので、当時はそういったデジロックがもはや主流のジャンルになっていました。
ディストピア感満載の退廃的なロックアルバム
1曲目の「Great The Big White World」から、荒廃した近未来を思わせるような始まりです。アルバム全体が同じような印象の曲で占められているので、あるSF映画のサウンドトラックみたいに感じます。この後に「The Dope Show」、「Mechanical Animals」とスロウなテンポの曲が続きますが、この3曲は連続したひとつの作品のように続けて聴くのがオススメです。
「Rock Is Dead」は映画『マトリックス』のサントラにも使用されたので、知っている人は多いんじゃないですかね。このアルバムでは最も有名な曲かもしれません。
アップテンポでノリの良い曲ですが、従来のマリリン・マンソンとは違うポップさが特徴的です。サビのメロディもキャッチーで、タイトルもわかりやすく、日本人ウケするロックナンバーです。個人的にはライトノベルの『涼宮ハルヒの溜息』で、ハルヒが口ずさんでいたのが意外でしたね。なので読書が趣味で、普段ロックとかを聴かなかった人でも、聴いたことがあるんじゃないですかね。
この他にも「Posthuman」、「I Want To Disappear」、「New Model No.15」といった曲も疾走感のあるキャッチーな曲です。音楽的な面では、当時マリリンマンソンを敬遠していた人たちでも、このあたりの楽曲はまだ聴きやすかったと思いますね。メタルやインダストリアル・ロックよりかはかなりポップ寄りですから。
タイトルが衝撃的な「I Don’t Like The Drugs(But The Drugs Like Me)」ですが、曲だけ聴くとポップなメロディと、ゴスペル風の女性ヴォーカルがフューチャーされたなかなか面白い曲です。
最後の2曲「The Last Day On Earth」と「Coma White」は最後を締めくくるに相応しい曲です。曲調も歌詞の内容も、このアルバムが持つ「絶望が待つ未来」とでも言える世界観を完璧に表現しています。特に「Coma White」は印象的なギターのアルペジオに加えて、マンソンの心に染み入る歌唱力も必聴です。
前作に比べて、このアルバムはヘビーなギターがやや影を潜めていますが、その分「歌」に対する比重が大きくなっていると思います。王道のハードロックやヘビーメタルが好きな人の中には、そのイメージからあまりこのバンドを認めていないとか毛嫌いする人もいるかもしれませんが、音楽だけに耳を傾けてもらえればなかなかの名盤だと思います。