90年代のロックといえば、USだけでなくUKでも大きな時代を迎えました。ブリットポップです。
2大巨頭であるオアシスとブラーを筆頭に、アメリカのロックにはないメロディーやポップネスは明らかにグランジ/オルタナ系のバンドとは一線を画すものでした。グランジ勢がギターを始めとした楽器の演奏を際立たせた曲を多く作るのに対して、ブリットポップの曲というのは楽器もヴォーカルもひっくるめてひとつの作品としていたといいますか、楽器隊はヴォーカルを引き立たせる脇役のような扱いだったのではないでしょうか。
あまりこの時代のUKロックで、ギターやドラムの主張が激しいバンドはいなかった気がします。ツェッペリンやディープパープルのようなギターサウンドが激しいバンドを産んだ国であるにも関わらず。はっきり言って、当時のUKロックにギターバンドはほとんどいなかったと言ってもいいですね。
ただし、僕はブリットポップにはハマらなかったですし、それほど多くのバンドも知りませんが、このバンドはブリットポップ時代のバンドの中で数少ないギターロックバンドだったと思います。
それがクーラ・シェイカーです。
彼らのデビュー前からオアシスやブラーは聴いていたので、自分なりに「UKロックの典型的な音」のイメージを持っていました。
「グランジほどギターは歪まず」、「ベースとドラムはメロディの邪魔をせず淡々と演奏して」、「ヴォーカルは過度に感情的にならないよう歌う」といった感じです。ほとんどがオアシスとブラーのイメージですので、もしかしたらもっと違う音を出すバンドはいたのかもしれませんが、あくまで僕のイメージですのであしからず。
UKロックなのにバッキバッキのギターサウンド
彼らの曲を初めて聴いた時のことは憶えています。学生時代にスーパーでアルバイトをしていたのですが、その時はバックヤードで野菜のパック詰めをしていました。店内には有線放送で日本の歌が流れていたと思いますが、バックヤードではラジオを流していたんです。そこで紹介された曲が「Grateful When You’re Dead 」でした。
「なんだ、このバンド!?」とバイト中ながら衝撃を受けました。野菜を詰める手を止めてじっくりと聴きたいところでしたが、店長と一緒だったので手は休めずに黙々と働いていました。心の中では軽く興奮していましたが。無意識に聴いていたラジオだったので、曲紹介の時にバンド名と曲名を聞きそびれていましたが、曲が終わった後にも紹介があったのでバンド名はしっかりと憶えて帰ることができました。この時点ですでにアルバムが発売されていたかどうか記憶が定かではないのですが、後日彼らのデビューアルバム『K』を購入しました。
とりあえず「グレイトフルなんとか~」と中途半端に曲名を憶えてはいましたが、その曲がアルバムの後半に収録されているのに違和感を感じました。普通シングルカットされるような曲は前半に収録されることが多いのに。むしろこんなにアップテンポでノリのいい曲は1曲目でもいいのになとも思いました。
そしてCDを再生して聴いた1曲目「Hey Dude」にいきなりやられました。
「こんなに必殺の1曲目があるなら、そりゃあんなに良い曲でも後半に持っていけるよな~」とか、「これは自分が知っているUKロックではないぞ」と驚きながらもそのままアルバムは聴き続けました。2曲目「Knight On The Town」もノリの良い楽曲でグルーブ感半端ないといったかんじです。しかもどちらの楽曲もVo&Gtのクリスピアン・ミルズが吠えまくって、否が応でも盛り上がってしまいます。
しかし彼らの曲はただのグルーブ感に溢れるギターロックというだけではなく、もっと独特な特徴を持っています。ずばりインドです。
メインソングライターであるクリスピアンが長期のインド旅行に出かけた際に、インド文化や東洋哲学に深い感銘を受けたということで、彼らの楽曲にはオリエンタルな要素が含まれています。そもそもクーラ・シェイカーというバンド名が大昔のインドの皇帝の名前からきているようです。
3曲目「Temple Of Everlasting Light」と4曲目「Govinda」を聴くとわかりますが、急に曲の毛色が変わります。前2曲に比べて東洋的な雰囲気が曲の中に現れます。音楽の専門家ではないので、具体的に何がどうなっているのかはわかりませんが、ヴォーカルのメロディや楽器隊の演奏に加えて、女性コーラスにもオリエンタルな要素を聴きとることができます。でも主役はギターなので良質なロックミュージックとして聴きごたえがあります。
彼らの音楽の特徴でもあるインド(東洋?)要素ですが、どちらかといえば僕としてはそういった要素が薄い痛快なロックンロールタイプの楽曲の方が好みです。
「Smart Dogs」、「303」といった曲はまさにそういった曲です。自然と体が動いてしまうノリの良さがたまりません。そしてクーラ・シェイカーの音楽で重要なポジションはオルガンの存在ではないでしょうか。解散後はオアシスのサポートキーボーディストを務めたKeyのジェイ・ダーリントンの奏でるオルガンの音が、90年代のバンドにも関わらず、どこかしら70年代の匂いを嗅ぎ取らせる要因となっています。
「Grateful When You’re Dead / Jerry Was There」は2部構成となっており、僕がラジオで聴いた時は前半の”Grateful When You’re Dead”のパートまででした。後半パートは人によってはなくてもいいと思うかもしれません。サイケデリックな曲調は前半のジャキッとした曲調とは異なり、冗長に感じることもあるでしょう。蛇足と言ってしまえばそれまでです。これはアメリカのブラス・ロックの大御所、シカゴの超有名曲「Hard To Say I’m Sorry/Get Away」のラストのパート(Get Away)が要るかどうかと同じ問題ですね。
あとクーラ・シェイカーにはもう一つ名曲があるんですけど、シングル発売のみの曲でアルバム未収録のため今回紹介させてもらいます(ベスト盤なんかには収録されているのかな?)。UKロックの大先輩、ディープ・パープルのカバー曲「Hush」です。
本当はもうひとつあるPVの方が好きなんですが…。ジェイがキーボーディストとは思えないテンションでノっているので是非見てみてください。