21世紀のヘビーロックの代表バンドのひとつ、SYSTEM OF A DOWN(システム・オブ・ア・ダウン)。メンバー全員がアルメニア系アメリカ人という珍しい構成です。
ダウンチューニングにミュートを利かせた重低音のギターリフは、いわゆるヘビーメタルの典型のようではありますが、独特の世界観と曲の構成はこのバンドを一言でメタルバンドと言い表すことを難しくさせます。
独特のリズムとたまに入るオリエンタルなメロディは、従来のメタルバンドとは一線を画すものでした。速弾きやギターソロがなく、そういった点ではハードコアに近い気もします。ただハードコアよりは演奏がもっと高度でメタル寄りとも言えます。
そしてなによりも特徴的なのは、サージ・タンキアン(Vo&Key)の独特な歌声と歌唱法です。叙情的なメロディでは、まるでオペラやミュージカル歌手のように情緒たっぷりに歌い上げます。自己の感情を剥き出しにするというよりは、ひとつの物語の登場人物であるかのような、まるで作り物の歌い手に見えます。ただ、その彼の歌声は間違いなく彼の魅力です。
98年に『System Of A Down』でデビュー。先ほども述べたようにメタルとハードコアの狭間のような音楽性は、ゴリゴリのヘビーメタルにあまり馴染みがなかった僕でも受け入れやすかったですね。たまにサージの道化じみたヴォーカルが入るコミカルな曲調の曲も、今までのメタル勢と比べて異色でした。まあサウンドそのものは凶暴かつ極悪なんですが。
01年発表の『Toxicity』では、全米初登場1位の快挙を達成。ここから一気にバンドはブレイクします。音楽性では前作の延長戦上にある作品ですが、凶暴性とメロディをもっと突き詰めた仕上がりとなっています。これはダロン・マラキアン(Gt)のギターの表現力が前作と比べて向上した成果だと思います。
攻撃的な音楽性の中にある狂気と耽美
代表曲のひとつ「Chop Suey!」は、彼らの持ち味である “美と狂気” の二面性を堪能できる1曲です。メロディックな静パートとアグレッシブな動パートの共存が見事な名曲ですね。特に静でのサージのヴォーカルが印象的で、彼の風貌も相まって神々しい雰囲気すら感じさせます。
またダロンの「イっちゃてる」感じもヤバいですねえ。もはや顔芸の域に達しています。こんなに危なそうな人物ですが、ソングライティング面での中心人物というんですから、人は見かけによりません。
またジョン・ドルマヤン(Dr)のドラミングも彼らの強みです。ある種、無機質のグルーブとでも言いますか、高速の手さばきから生み出される乾いた感じのドラムサウンドはやや機械的にも聴こえます。ただその無感情さが、彼らの舞台音楽を思わせるようなドラマチックな音楽の舞台装置の一つのように機能しています。
タイトル曲でもある「Toxicity」はまさにシステム・オブ・ア・ダウン劇場とでも呼ぶべき楽曲です。やはり「Chop Suey!」と同じように、耽美的な静と攻撃的な動のパートの対比が見事にマッチています。メロディやギターリフだけでなく、曲の構成やPVも含めて彼ららしさが凝縮された一曲です。
余談ですが、タモリ倶楽部の空耳アワーで紹介されたこともある曲ですので、興味のある方はぜひネットで動画を漁ってみてください。
もちろん「Prison Song」や「Needles」といった、ゴリゴリの重低音で押し切る曲も彼らの魅力です。また「X」、「Bounce」、「Simmy」らは曲の長さが2分に満たないのですが、短さの中にもう無理やり彼らの良さが詰め込んであります。決して捨て曲などではないので、こういった曲も存分に楽しめます。
アルバムラストを飾る「Aerials」は今作屈指のメロディアスな楽曲。最後に相応しいバラードです。哀愁溢れるアルペジオ(バックに流れるストリングも良い!)から一気に轟音の渦に飲み込まれる。同時に歌い出すサージの、力強い中に憂いを含んだ歌声を聴いただけでもう名曲確定ですね。サビでのダロンとのハーモニーもこの曲の美しさを構成する要因です。作曲クレジットはダロンひとりになっていますね。別の曲のPVで、あんなに変顔をキメてくる人とは思えないほどのメロディセンスに脱帽です。
解散したわけではないらしいのですが、05年の『Hypnotize』以降、10年以上もアルバムを発表していないので、もう今後は彼らの新しい音源を聴くのは難しいかもしれません。日本ではどうかわからないですが、アメリカでは今も人気があるようなので、ぜとも新作を作ってほしいものですね。