90年代のオルタナブームの頃から世に出てきていたバンドだと思っていたら、アルバムデビューはなんと1984年。前身バンドのLoud Fast Rules(ラウド・ファースト・ルールズ)に至っては81年結成というから、ブームの頃にはすでにベテランバンドの域に達していたSOUL ASYLUM(ソウル・アサイラム)。と言っても、フロントマンのデイヴ・パーナー(Vo&Gt)はデビュー時には若干20歳だったので、オルタナブーム真っ盛りの90年代前半でもまだ20代の青年で、ベテランという呼び方も不自然な気がしますが。
もちろん、と言ってはバンドに対して失礼な気もしますが、僕が彼らを知ったのはやっぱり大ヒット曲「Runaway Train」を聴いたときです。
当時のオルタナバンドには、ニルヴァーナ、パール・ジャム、サウンドガーデンといったハードでノイジーなバンドもあれば、R.E.Mやポウジーズ、スーパーチャンクのようにポップでメロウなバンドもいました。だから洋楽オルタナ好きっていろんな要素を持ったバンドを楽しめたから、なんだか得してた気がします。
「Runaway Train」は完全に後者の部類の曲だったので、激しさよりも「聴かせる」曲をメインにしたバンドなんだろうなと思い込んでいました。
ミュージックビデオの中では、実際に行方不明になった子供たちの写真と名前を写した結果、何人かの子供たちが見つかったという逸話もこの曲がヒットした要因ではあると思いますが、やはり曲そのものが素晴らしい。オルタナムーブメント期の名曲の一つであるのは間違いないでしょう。美しいメロディやソフトな曲調に反して、歌詞の内容はなかなか暗いんですけどね。
ハードロックサウンドにノリの良いメロディがハマる良作
というわけで、「Runaway Train」からこのバンドを知った僕が、他の曲もこういった感じのものが多いんだろうなと思うのは至極真っ当なものでした。当時は洋楽ロックのシングルCDなんてほとんど日本で販売してなかったし(今もか)、インターネットが今みたいに発達してないから、1曲だけダウンロードして聴くなんてこともできません。なので「Runaway Train」1曲だけ聴きたいだけでしたが、結局「Runaway Train」が収録されたアルバム『Grave Dancers Union』(92年発表)を買うことになりました。
これって結構冒険でしたよね。現在だとアルバムを購入する前にネットなんかで他の収録曲を聴くこともできるし、欲しい曲だけダウンロードしてもいいんですから。1曲気に入った曲があったけど、他の曲は全く好みに合わなかったアルバムなんて、今までどれだけ出くわしたことか。
で、『Grave Dancers Union』を聴いたわけですが、1曲目の「Somebody To Shove」がいきなりハードロック調のギターリフで始まるという、ものの見事に期待を裏切る結果です。ところが…。
あれ、カッコいいぞ?
いわゆるグランジバンドみたいなノイジーで陰鬱な曲調ではなく、適度に歪んだギターと軽快なリズムに、ポップでキャッチーなヴォーカル。ギターポップとは言わないまでも、非常に聴きやすくノリの良い楽曲です。
2曲目の「Black Gold」は、「Somebody To Shove」と「Runaway Train」を合わせたような曲。アコースティック風のAメロから、シンプルながらも、力強いエレキギターサウンドが心地よいサビが見事に共存しています。デイヴ・パーナーのヴォーカルは激しくシャウトするよりも、静かに語りかけるような歌い方の方が僕としては好みですね。かすれ気味の声が哀愁を誘います。
このいかにもアメリカ大陸だぜ~といった風景がいいですね~。
「Keep It Up」、「Growing Into You」は軽快なロックナンバー。いかにも青春といった感じのアップテンポな曲は、当時のアメリカのティーンエイジャーたちもノリノリで聴いていたんじゃないですかね。
青春といえば、「Without A Trace」もなかなかの青春ソングです。イントロや間奏部分の甘酸っぱい匂いのするギターフレーズもいいんですけど、サビのハーモニーも好みですね。
物憂げな気分にさせる「Homesick」と「The Sun Maid」は、「Runaway Train」寄りのバラードです。どちらも派手さはない地味な曲ですが、デイヴのヴォーカルが沁みますね。もうひとつ「New World」というバラードもあるのですが、この曲はMTVの人気企画、アンプラグドで披露されました。ライブではバイオリンなどの弦楽器がCDよりも強調されて、また違った良さがあります。
今回、この記事を投稿する際に知ったんですけど、2020年の今年もニューアルバムをリリースしたみたいです。当時のメンバーはデイヴ・パーナーしか残っていないようですけど、まだ活動していたことに驚きでした。というか、数年おきとはいえアルバムは発表していたみたいですね。2016年には来日(21年ぶり!)もしたようです。ああ、もう生で見ることは叶わないかもしれないなあ。